山好きに愛されてきた、メイド・イン・神戸のザック。
この春、「ビショップ」のラインナップに、シンプルでどこか懐かしさと親しみを感じるデザインのバックパックがある。作ったのは、1971年に創業した「神戸ザック」。地元・神戸はもちろん全国の登山家が厚い信頼を寄せるガレージブランドだ。その魅力と使いやすさの秘密が知りたくて、神戸・元町に構える店舗兼工房を訪ねた。
次世代に受け継がれたガレージブランド
神戸の元町商店街を西に進むと、象徴的な深緑のファサードが見えてきた。路面の店舗スペースから階段を上がっていく。窓の外に広がる朗らかな街の風景とは対照的に、心地いい緊張感をはらんだミシンの音が規則正しく響く工房。半世紀以上に渡って実直なものづくりを続けてきた、神戸ザックの拠点「神戸ザック研究所」だ。


1階は店舗兼ショールーム。2階に工房がある。
登山家でもあった先代によって創業された神戸ザックのオリジナルブランド〈イモック〉は、機能性を最重視した本格的な登山家のためのザックとして全国的に名が知られてきた。その確かな品質は、南極越冬隊やエベレスト登山隊の装備として採用された歴史を持つほど。型紙づくり、刃物を駆使した生地の手裁ち、足踏み式動力ミシンでの縫製。すべての工程を職人の手仕事で行うという稀有なガレージブランドは、効率や生産性を度外視してきたこともあってか後継者不足に悩むことになる。そして2020年、80歳を区切りに廃業を決意していた先代に声をかけ、事業承継したのは神戸に本拠を構えていたセレクトショップ「乱痴気」の創業者、前川拓史さんだった。
「地場産業のプロダクトを紹介する活動をとおして、先代には前々からお世話になっていました。足の踏み場もないほど物であふれた工房で黙々とミシンを踏む姿を見て、継ぎ手が見つかるとは思えず。目の前にあるこの伝統と技術が消えていくのはもったいないと感じたんです」と神戸ザックの現代表である前川さんは当時を振り返る。それからの1年半は先代に技術指導を仰ぎ、受け継いだ哲学をベースに新たな神戸ザックの姿を模索し続けた。
掲げたブランドコンセプトは“山、旅、街”。登山用の道具にかぎらず、日常の様々なシーンに寄り添うプロダクトを目指す。背負い心地のよさなど、継続して守るべき本質を軸に現代のライフスタイルに合わせたアップデートを重ねていく。若い女性スタッフの意見を取り入れ、より街歩きでも好まれる商品やカラーバリエーションを増やしていった。そんな新しい風が吹く神戸ザックと「ビショップ」が巡りあい、メイド・イン・神戸のコラボレーションアイテムが生まれたのは極自然なことだったのかもしれない。シンプルでつくりのいいものは、時代を超えた普遍的な美しさをまとう。神戸ザックが紡いできた歴史とクラシックな佇まい、日々の暮らしに寄り添う誠実なものづくりは、「ビショップ」の哲学と深く共鳴する。こうして「ビショップ」の別注によるアイテムづくりが始まった。
デイパックとサコッシュが生まれるまで
「『ビショップ』さんからはタウンユースを前提としながらも、昔のアウトドアシーンにあったようなクラシカルなデザイン要素を取り入れたいという希望を感じました。サンプルを何度か作り直しながら理想の形に近づけていって。私たちにとっても新しいチャレンジでしたね」と前川さんは笑う。
「ビショップ」のラインナップに今春加わる別注アイテムは、デイパック(3色)とサコッシュ(5色)。共通して印象的な仕様は、ファスナー部分を覆う“被せ”だ。ミニマルで洗練された表情が生まれ、春はスラックスやジャケットといったクリーンな装いにも馴染む。デイパックのフロントポケットは縦長の配置で、アウトドアザックの旧来の意匠を踏まえつつも現代的なバランス感覚で再構築されている。生地に採用されたのは“セルスパン”という、1980年代に東レが開発したナイロン生地。ムラ染めのような霜降り調の風合いで、タフさと軽さを備えつつも品がある。


「ビショップ」別注のデイパックはブラック、レッド、ベージュの3色。
ブランド名の由来には、先代のあだ名が“イモ”でイモが作るザックだから〈イモック〉という説もあるそう。

「ビショップ」別注サコッシュのサンプル。
もちろん、神戸ザックの真骨頂である背負いやすさへの妥協はない。ザックに関して縫製スタッフの佐々野渚さんは「先代がこだわり抜いた型紙とミシンを引き継いで使っています。背中に沿うように設計されたカーブがあるからか疲れにくくて、ずっと背負った後にザックを下ろしても背中にフィットした感覚が少し残るのは、神戸ザックならではのものかなと思います」と話す。ハイキングや日帰りの登山に対応できるほどの本格仕様だが、それこそが暮らしの道具としての信頼感につながっているのだろう。
タグにあるパイプをくわえた芋虫のロゴは、先代の山友だちが描いたもの。仲間と連なって山を登る姿をイメージした愛らしいタグは、機能一辺倒ではないブランドの人間性を物語っている。街中でこのタグを見かけると、背負った人と言葉を交わさずとも親しみを覚える神戸人もいるそうだ。始まりは、先代の自宅の片隅にあったプレハブ小屋から。次世代の職人たちに引き継がれた精神はそのままに。持ち主の日々を支えてくれる、オンリーワンなザックの誕生だ。
KOBE-ZAC
住所:兵庫県神戸市中央区元町通6-3-18
TEL:078-958-8855
営業時間:11:00~18:00
定休日:水曜日
https://kobezac.official.ec