“暮らしの風景”としての器
出西窯の器は、ただ料理を盛るためだけの道具ではありません。
朝、卵を焼いてそのまま食卓に出すエッグベーカー。午後、友人とお茶を注ぎ合う煎茶器セット。晩酌に交わす徳利とぐい呑み。
どれも、日々のささやかな瞬間に寄り添い、その時間をほんの少し豊かに、穏やかにしてくれる力があります。
日々を整えるための道具であると同時に、「美とは何か」「豊かさとは何か」をそっと問いかけてくれる存在でもあります。
選ぶこと、使うこと、育てること——そのすべてが、“自分の暮らしを自分で愛でる”という、小さな行為への導きです。
多彩な釉薬と“土と火”の個性
白、黒、呉須、飴、緑…。
色合いは一見シンプルながら、手に取ると、その奥行きや揺らぎに心を奪われます。
器ごとに異なる表情は、天然の釉薬や焼成によってもたらされるもので、火や土、そして職人の手仕事が織りなす豊かな個性とも言えます。
なかでも、深みのある藍色が印象的な「呉須」の器や、登り窯で焼かれた焼き締めの器に見られる焦げや窯変には、ひとつとして同じもののない美しさが宿っています。
その揺らぎや質感には、手仕事だからこそ生まれる「偶然が生んだ必然の美」とも呼べる魅力が感じられます。
工業製品では味わえない、出会いのある器たち。ぜひ手にとって、その唯一無二の表情をお楽しみください。
色とかたちの話多彩な釉薬と“土と火”の個性
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呉須釉(ごすゆう)
深く、にじむような青。その色は「出西ブルー」として広く知られています。
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飴釉(あめぐすり)
とろりと溶けた蜜のような、あたたかみのある琥珀色。
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黒釉(くろぐすり)
ほんのりと鉄分のにじみや焼成のムラが現れる、艶やかな黒。
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白掛地釉(しろかけじぐすり)
素地に白い化粧土をかけたような、やさしい生成り色。
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海鼠釉(なまこぐすり)
藍と白が混ざり合い、一つひとつが異なった独特の表情が生み出される。
手に馴染む「用のためのかたち」
出西窯の器には、視覚的な美しさだけでなく、“手に取ったときの心地よさ”という実感があります。
例えば、カップの口縁の厚み、ボウルのすぼまり具合、皿のリム
の立ち上がり。
どれもが、使う人の動作や習慣を想像しながら作られています。
道具としての機能美を超えて、“手と体が自然に覚える”かたち。それが出西窯のフォルムに通底する思想です。
色とかたちの話手に馴染む「用のためのかたち」
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エッグベーカー
昭和28年、バーナード・リーチの実地指導を受けて生まれた耐火土製の器。直火にかけて卵を蒸し焼きにでき、そのまま受皿にのせて食卓へ。小さな道具ながら使い勝手がよく、朝の食卓に温もりを添えます。
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モーニングカップ
バーナード・リーチの指導に基づいて製作した洋茶器。たっぷり飲める大ぶりな器に、ウエットハンドル技法で作られた把手は指あたりがやさしく、安定して持ちやすいのが特徴です。
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砂糖壷
昭和39年、バーナード・リーチの指導により生まれた小壺。蓋と器にはスプーン用の切り込みが施され、使い勝手も良好。砂糖だけでなく塩壺としても好評で、多くの人々から支持されています。
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ピッチャー
把手は「木から枝が伸びるように自然であるべき」とするバーナード・リーチの教えに基づき製作されました。注ぎ口のつくりにも細心の注意を払い、水差しとしての使いやすさに加え、花器としても絵になる佇まいです。
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饅頭蒸し器
出雲の食文化と朝鮮陶器に学び、金津滋氏の助言とバーナード・リーチ直伝の把手技法を取り入れて完成。蒸気を通す底穴や蓋の密閉性にも工夫を重ね、饅頭をふっくらと美味しく蒸し上げる実力派の一器です。
使いやすさと品格のバランス
実用性と品格。その両立こそが、出西窯の器の魅力です。決して奇抜では
ない。
でも、どこかしら品のある佇まい。
毎日使うものだからこそ、飽きのこない意匠が求められます。
そのうえで、器としての品位を保ち続けているのは、計算された寸法と、
人の手による微細なゆらぎの妙があるからこそです。
“名もなき良品”を目指す姿勢
出西窯は、作者名を冠することなく、器自体の質で勝負する“無銘の思想”を貫いています。
それは、民藝運動の礎でもある「手仕事の共同体」としての誇りであり、名声や作家性よりも、暮らしに根ざした良品を届けると
いう強い意思の表れです。一つひとつの器には、職人たちの手の感触と、土地の風土、そして時間がしっかりと刻まれています。
名前がないからこそ、使う人の暮らしの中で名前を持ちはじめる
——そんな静かな美意識が、出西窯の魅力の根底にあります。
出西窯の哲学“名もなき良品”を目指す姿勢
出西窯とは美の出会い

終戦直後、五人の青年が目指したもの
1947年、戦後間もない混乱の時代。島根の地に暮らす五人の青年たちは「本当に美しいものを、自分たちの手で作りたい」との思いから出西窯を創設しました。大量生産の波に逆らうように、土と火に向き合う生き方を選んだその姿勢は、当時としては極めて先鋭的でもあり、誠実な挑戦でもありました。

民藝との出会い
出西窯の創業において決定的な出会いとなったのが、民藝運動の提唱者・柳宗悦です。
「無名の工人が作る日用品の中にこそ、真の美がある」という彼の思想は、出西窯の在り方に深く根を下ろし、今なおその精神の中核を成しています。
この思想に共鳴し、やがて濱田庄司や河井寛次郎といった民藝の実践者たちとも親交を深めていくなかで、出西窯は単なる陶房にとどまらず、「用の美」を追求する生活文化の担い手としての道を歩み始めます。さらに、イギリスの陶芸家バーナード・リーチの来訪は、西洋と東洋を架橋する民藝の思想をより広く照らし出すものとなり、出西窯に新たな視座と国際的な視野を与えました。
こうして、出西窯は民藝運動の理想を土台に、時代や流行に左右されない、誠実で実用的な美のかたちを静かに育んできたのです。

「用の美」とは何か
「用の美」という言葉は、しばしば“実用的で美しいもの”と捉えられがちですが、出西窯の理解はもっと深いものです。それは、ただの機能美ではありません。暮らしの中で“使われ続けることで生まれる美しさ”、すなわち“関係性としての美”なのです。
器は、人の営みによって美しくなる——その考え方が出西窯のものづくりの核にあります。

土地との結びつき
出西窯が位置するのは、島根県出雲市斐川町。古代から続く神話と農の文化が息づくこの地は、静かで力強い自然に囲まれています。この土地の空気、風、湿度、土——すべてが器の中に反映されています。出西窯にとって、ものづくりとは“場所”と“人”の共鳴であり、土地に根ざすことは美に根ざすことでもあるのです。
出西窯の哲学“名もなき良品”を目指す姿勢
いまも生きる
手仕事思想への共鳴

均整と手仕事の“ゆらぎ”
出西窯の器には、寸分の狂いがないようでいて、どこかに人の手のぬくもりが感じられます。それは、「均整の中のゆらぎ」とも呼べるもの。完全な左右対称ではないけれど、手に持つとしっくりくる。そのわずかな“ゆらぎ”こそが、手仕事の証であり、器に呼吸を与える要素なのです。


火と土の対話
出西窯の工房では、今も土を練り、ろくろを回し、窯で器を焼く作業が繰り返されています。その一つひとつが手間の積み重ねであり、技術と感性の対話です。
窯焚きの火の加減、釉薬の表情、成形のリズム——それらすべてが一つの器の中に凝縮されています。

若き職人たちの言葉
現在も多くの若い職人たちが、この哲学を受け継ぎ、日々の手仕事に励んでいます。
ある若手はこう語ります。「人の生活を支える器を作るって、とても静かで、でも尊いことだと思うんです」。その言葉の通り、出西窯の器には“声なき美”が込められています。

出西窯と共に、“暮らし”を見つめ続ける場所
島根県出雲市の窯元『出西窯』が主宰する〈出西くらしの
village〉内に、山陰地方初となるBshop出西店が2019年に誕生しました。
この地に店舗を構えるきっかけは、民藝運動に影響を受け、“用の美”を追求してきた出西窯と、暮らしに根差した衣服や道具を愛してきたBshopの先代との、思想的な共鳴にあります。
物を「売る」ことではなく、「伝える」こと。「つくる」ことと「使う」こと。
その橋渡しのような場所を、ともに育てていこうという対話の延長線上に、この店は生まれました。

杉や檜といった地元の木材をふんだんに使い、風や光が抜けるような開放的なつくりが特徴です。土や木の手ざわり、窓から見える木立のゆらぎ、風を感じ、耳に届く鳥のさえずりや登り窯の煙の匂い……それらすべてが、買い物という行為の背景にある“暮らし”をそっと思い出させてくれます。
出西窯の器は、他にもBshop一部店舗でも取り扱っておりますので、ぜひ手にとって、その使い心地や美しさを体感してみてください。