人と関づか
前に進むことだけが新しさではない
嘉戸 浩 KO KADO
かみ添 店主
前に進むことだけが新しさではない
嘉戸 浩
KO KADO
かみ添 店主
唐紙のショップ兼工房
「かみ添」に足を踏み入れると
目に飛び込んでくるのは、
潔いまでの白一色。
そのクリエイティブは、
かみ添店主の嘉戸浩さんの
伝統という長い歴史への敬意と
歴史を俯瞰的に見る視点を
感じさせてくれるものでした。
関づかの履物を
仕事のときに履く嘉戸さん。
履物に足を入れることで
何を感じているのでしょうか。
作家ではなく、職人として
「お客さまや現場の話を、とにかく聞くということですかね」
約400年の歴史をもつ唐紙の世界で、職人として活動する嘉戸浩さんは仕事をするうえで大切なことを、そう話します。
嘉戸さん曰く「作家のように思われますが、職人なので、ゼロからつくることはありません。とにかくお客さまや現場が何を望んでいるのかに耳を傾けることが大事」なのだと言います。
「お客さまから、『こういうものをつくりたい』と言われた文様をお預かりして、用途に合うように余白や文様の再現性などを編集して唐紙に仕上げていくのが、ぼくの仕事です」
唐紙とは、ひらたく言えば絵具を染めたり、版木を使い「型押し」という技法で文様を印刷した和紙のこと。古くは渡来人によって中国から伝来したものと言われています。
襖紙や壁紙として個人宅や店舗に用いられることも多いですが、唐紙のショップ兼工房「かみ添」を営む嘉戸さんは、手にとってもらいやすいように便箋や封筒などのステーショナリーも手がけています。
歴史を掘るということ
かみ添の代名詞のひとつでもあるのが、白地に白い絵具をのせた唐紙です。店内に入ると調度品以外、置かれているものは、ほぼ白一色。凛とした空気が流れています。
「お客さまは、白地に白の唐紙を手に取ると『新しいですね』と言ってくださいますが、決して新しいものではありません。むしろ、もっとも基本の仕上げだから、ずっと昔からある技法です」と嘉戸さん。
「普通の職人は嫌がりますよね。すぐに汚れるし、素材に近い無垢なものだから、ごまかしが利かないというか、嘘がつけないから」
それでもなぜ嘉戸さんは、白地に白い絵具の唐紙をつくるのでしょうか。
「素材好きだからでしょうね。当たり前のものすぎて職人たちは見過ごしてしまいがちですが、その美しさに気づけるかどうかが大事なのではないですか」
そう話す嘉戸さんにとって、伝統や歴史をどのように感じているのでしょうか。守るものなのか、それとも更新していくものなのか。嘉戸さんはどちらも同じだと捉えていました。
「老舗のベクトルは前に向かって進むしかないけど、400年以上ある長い歴史のなかで、ぼくは途中から入った者だから、前にも後ろにもどちらにも進むことができます。それが途中から入った者の強みでもあると思います。ただ、自分としては、前でも後ろでもなく、“掘っている”感覚が強いですね。“進んでいる”ことに変わりはないですけど」
何かアレンジを加えるのではなく、古いものを研究しているだけと語る嘉戸さんの革新性は、歴史への敬意や時空を俯瞰して見る視点にあるのかもしれません。
日常と非日常が切り替わる履物
同じく長い歴史のなかに立つ“同業”でも関塚さんがつくる履物を、仕事のときに履くという嘉戸さん。その理由をうかがってみました。
「友人というのがいちばん大きいかもしれませんね(笑)。でも、いろいろ話を聞いていると、とても真面目に仕事をされているので、一度、履いてみようと思ったのがきっかけだったと思います」
その印象は、「気持ちがしゃんとして、なかなかいいなぁ」と感じたそう。
「正直、決して履きやすいとは思わないし、脱ぎ履きだってしづらいですよね」と嘉戸さん。「ただ......」と継ぎます。
かみ添 http://kamisoe.com/
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