今シーズン、
MORRIS & SONSから毎日の相棒になるような、
気持ちのいい着心地の
丸編みカットソーが登場しました。
その着心地の根幹を担う生地をつくっているのは、
和歌山にあるニッター〈株式会社コメチウ〉です。
古い編み機から時間をかけて生み出される
ふんわりとした生地。
空気を一緒に編んだような柔らかい生地は
どのようにつくられるのか。
それを知るべく、
〈コメチウ〉の工場を訪ねました。
Wakayama,
the holy land of circular knitting
和歌山は日本の“丸編みニット”のシェア40%、丸編みニット生地の生産において国内一位を誇る一大産地です。“丸編みニット”とは円周上に編み針が並んだ編み機で筒状に編まれた生地のこと。“ニット”というとセーターやカーディガンを思い浮かべる方が多いと思いますが、細い番手の糸を使うことが多い丸編みニットは、主にTシャツやカットソー、肌着などに使われ、伸縮性に優れたソフトな風合いが特徴です。
和歌山市には“ニッター”と呼ばれる生地を編むファクトリーのほか、染色加工や縫製、テキスタイルやプロダクトを手掛ける会社などが集積しています。
和歌山でニットがつくられるようになったのは明治42(1909)年のこと。スイス製の丸編み機5台を輸入し、生産をはじめたのが起源といわれており、大正時代には全国一の丸編みのニット生地産地として発展しました。
グローバル化の価格競争など厳しい状況にさらされ、日本のニット産業は年々衰退の傾向にあります。しかし、和歌山では今でも100年前の吊り編み機から最新マシンまで、あらゆる時代の丸編み機が稼働しています。
和歌山のニッターは日々変化するファッション業界のニーズや要求に応えるため、技術のアップデートをしながら、時にはファクトリー同士の垣根を越えて連携し、世界のメゾンブランドからも愛される高品質な生地を国内外で提供しています。
今シーズンのMORRIS & SONSの丸編みカットソーの生地は、そんな和歌山の中でも珍しい丸編み機で編まれているということで、その生地を生産している〈株式会社コメチウ〉に取材に伺いました。
〈コメチウ〉は、和歌山市紀三井寺にある70年以上の歴史を持つ、“小寸(コズン)”の丸編み機に特化したニッターです。“小寸”の丸編み機は旧式の編み機とされており、機械の生産は終了し、メーカーも撤退しています。〈コメチウ〉はそんな“小寸”の丸編み機を約350台も保有している、世界的に見ても珍しいニッターです。
工場内に足を踏み入れると、静かにカタカタと回り続ける数台の編み機がありました。それが今回の丸編みカットソーを生み出している、ベントレーの丸編み機。現在は自動車を生産しているイギリスのベントレー社が100年以上前に出した丸編み機です。
ベントレーの丸編み機は、コメチウの丸編み機の中でもとりわけ複雑な編み機です。今から8年ほど前に、茨城県のニッターが廃業するにあたり編み機の貰い手を探していましたが、古い機械でどこも扱えず、最後に声がかかったのがコメチウでした。
代表の南方さんは、2週間ほど現地へ行って回し方を教えてもらい、15台を和歌山に持ち帰ることに。和歌山に戻ってからは、まず1台をバラバラに分解し、それをもう一度組み立てることで機械の構造を把握しました。円周状に3段ある針の総数は1728本、パーツは1400〜1500個ほど。組み立てには約3ヶ月、実際に商品を納めるに至るまでには1年ほどかかったそうです。
ニット業界では、ふつう1つの編み機で編むことができる編み地は1種と決まっています。しかしベントレーの丸編み機は、機械を止めることなく4種の編み地を編むことができます。これがベントレーの丸編み機の大きな特徴であり、機械が複雑なカラクリ仕掛けになっている所以でもあります。
1枚の生地の中で、「天竺編み→袋編み→リブ編み→フライス編み→天竺編み」と編み地を変えられることにより、袖と裾のリブを繋ぐ縫製が不要になり、肌当たりはフラットになります。天竺編みは分割ポイントで、糸を切るとパーツが分かれ、リブ編みの先端は袋編みで糸がほつれない仕様になっています。
現在コメチウでベントレーの丸編み機を動かせるのは、代表の南方さんのみ。糸が切れる、針が折れるなどの小さなトラブルの対処法も、機械の構造が複雑なため手間と時間がかかります。始めはきれいに編むことができていても、急に機械の調子が悪くなって編み地が狂ってしまうことも。目を離すとそのまま編まれてしまうため、稼働中は編み機につきっきりになります。同時に稼働できるのは多くても4・5台。南方さんはじっと機械を見守り、異変があればその度に素早く調整を行います。
上部は非常に複雑な機械がびっしりと詰まっているベントレーの丸編み機ですが、下部からは暖かい光に照らされながら、ふんわりとした生地がゆっくりと降りていきます。ベントレーの丸編み機は、使う糸の本数が少なく、ゆっくり編むことができるため、糸にストレスがかからず、繊細な糸でも甘く編むことができます。そうすると編み地のループもつぶれずにきれいに出すことができる。柔らかくも着崩れしにくい、とても贅沢な生地に仕上がります。
ベントレーの丸編み機を含め旧式の丸編み機は、既にメーカーが撤退しているため、パーツが壊れたら自分たちで直し、直せないパーツであれば作り出さなければいけません。コメチウでは、稼働させる編み機とは別に、何かあった時に部品を取るための編み機も確保しています。現在も稼働している小寸の丸編み機は、日本だけでなく世界的に見ても数がとても少ないです。和歌山では、それぞれが独自の手法でメンテナンスを重ねながら、今も小寸の丸編み機を稼働させています。
時間も手間もかかる昔の機械は、
淘汰、廃棄されることが大半ですが、
和歌山にはコメチウ以外にも
希少な技術や機械を
大切に守っているファクトリーが
たくさんあります。
南方さんは、ここ10年ほどで
ファクトリー同士の横のつながりが
すごく増えたと言います。
和歌山のニット産業は、
今後も世界で活躍するため、
ファクトリー同士の垣根を越えて
オーダーメイドやオリジナル企画生地の
提案型産地へのシフトを図るなど、
次の時代に向けて歩み続けています。
カタカタと回る編み機の音を
聴いてみてください。
Product introduction
ベントレーの丸編み機で作られた丸編みカットソー。半袖の長さは、カジュアルに着用できるよう短めに細かく調整。女性らしく着用できるようにしています。カラーはベーシックなものを基本に、明るめの色も展開。クラシックなカラーをイメージしつつ、今の気分に合うようトレンド感も意識しています。ワンウォッシュのデニムとコーディネイトしてもらえるような色を想像しながら選びました。