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イマジネーション

2019.3.8  FRIDAY

「ほら、頭を突っ込んで嗅いでみな」、「どうだ、これがアメリカのにおいだ」
かつてアメリカからの荷物が届いた際に、私の上司がさらにその上司に言われたセリフだ。それも、おもちゃを与えられた時の子供のようなキラキラした目をしていたという。
インターネットは当時でも存在していたのは確かだが、まだ世界との物理的な距離をしかりと感じられていた時代だったと言えるだろう。
情報が少ないからこそ、五感をフルに使って、目の前の現物から少しでも手がかりをつかもうと、大の大人が躍起になっている様子が目に浮かぶ。

ファッションを楽しむのにイマジネーションの力は欠かせない。それはデザイナーであれ、消費者であれ変わらないはずだ。
ではイメージの力の根源はどこにあるか。それは未知なものに対し、知りたいと渇望する過程で培われるものだ。
もう聞き飽きているセリフだが、現代社会は情報過多で、想像力を養う機会が著しく失われているように感じる。なにかに迷い、わからないことがあれば真っ先にGoogle先生に聞く。そうすれば、その場でそれなりに納得のいく答えを提示される。怖いのは、私たちミレニアム世代はその検索結果に何の疑いもなく信じ、実体験もなしにその知識があたかも自分自身の血肉となったかのように錯覚してしまうことだ。

未知だったものが明らかになったとき、霧が晴れるようなすがすがしい気持ちになる。でも忘れないで欲しいのは、霧がかった景色もまた、その謎めいた神秘さで人を惹きつけるのだ。
特にファッションはその霧が濃ければ濃いほど私たちの探究心を煽り立てるものだ。

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マラケシュライフはその名前の通り、モロッコ・マラケシュ発のブランドである。モロッコと言えばアラブ文化やヨーロッパ文化、ベルベル文化など複数の文化圏の影響を受け独特の発展を遂げてきた国だ。そのなかでもマラケシュというと中世の面影が色濃く残り、迷路のように入り組んだ街だ。マレケシュのジャマエルフナ広場で夜な夜な盛り上がりを見せるナイトマーケットも名物である。

ニューヨークのファッションフォトグラファーとしてのキャリアを持つ Randall Bachner がマラケシュで立ち上げた小さいスタジオがブランド発足のキッカケだ。
そこでは地元の職人さんやアーティストたちが集まり、民族衣装のカフタンドレスからジャンプスーツまで、女性も男性も関係なく着られるアイテムをすべて手縫いで作っていた。
ハイファッションの世界からやってきたランダルにとって、生地を手織りで作る文化が盛んな割に、その原料はいたってシンプルで一般的なものを使用していると言う事実にギャップを覚えたに違いない。
しかし、こうした環境に身を投じたからこそ、新たなインスピレーションを得たと言えるだろう。彼は簡素だったテキスタイルにウィービングという織り込みをいれることで、生地に奥行きを持たせ、手仕事による人の温もり感と洗練されたスタイリッシュさを併せ持つコレクションに昇華させたのだ。

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画像のショートガウンもよくよく見ると黄色と生成りの2種類の糸を巧みに組み合わせ、表面に綾模様をつくり、カジュアルな装いの中に少しラグジュアリーなエッセンスを足している。
マラケシュライフのプロダクトの数々はマラケシュのアトリエの中で、古い木製の手織機による生地の生産、テーラーによる縫製、マラケシュのショップでの販売、これらすべてを一貫して行っている。
デザインソースもモロッコの伝統的なワードローブにしているからか、どことなくエキゾチックな雰囲気を感じずにはいられない。それを活かすためにも、ドレープ感が強めなワンピースに合わせ、生地がうみ出す揺らめきを楽しんでもらいたい。ちなみにガウンなのだから、お気に入りのパジャマにそのまま羽織るというアイディアもおもしろいはずだ。

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手織りの生地にテーラーによる仕立て、限りなくオートクチュールに近いのに、カジュアルウエアの姿をしている。ここまで並べた言葉だけでもそのミステリアスさが垣間見えるだろう。
撮影した時間帯が丁度夕方だったからか、マラケシュライフのガウンから漏れ出た斜陽から、ふと砂漠の夕日を思い浮かべた。
袖を通したらきっと、マラケシュの夜市に繰り出す自分の姿を想像せずにはいられなくなるだろう。