Bshop

Bshop

BLOG

ARCHIVES

はみ出すこと

2019.3.1  FRIDAY

人間はおそらく遺伝子情報に「ルールを作る」という行動原理を刷り込まれている。私たちが暮らす現代社会で規則という言葉を意識した瞬間、日常に溶け込んでいたそれらが見る見るうちに目の前で増殖していく様は容易に想像できる。

もちろん、人は一人では生きていけない、コミュニティーの規模が大きくなればなるほど、「法」を設けないと文明は成り立たない。
しかし同時に気づくことがある、法によって文明は芽生えようと、文化は生まれないと言うことだ。カルチャーはいつの時代でも従来あったルールから脱却することでその存在意義を示してきたはずだ。
アートにしろ、建築にしろ、音楽にしろ、ファッションにしろ、殻をやぶり、旧体制からはみ出ることで革命を遂げ、最初は邪道とされつつもいつしか市民権を得るのだ。

結論を簡潔に言うと、この窮屈な現代社会でひと時の自由を手に入れられるのに、ファッションほど手軽なツールはないと言うことだ。
実際若かりしころ、制服を家の鏡の前で着崩してみたことは、洋服好きならきっと一度くらいあるはず。
その着こなし自体がかっこいいかどうかはさておき、今ならわかる。当時、校則という自分自身が所属している体制に対し、制服を着崩すことで、あたかもその拘束の鎖を断ち切り、自由になったような錯覚に酔いしれていたのだ。
一度はみ出すことで今までいた場所の魅力に改めて気付かされることも多い。先の制服の話に例えれば、あんなに着崩していたのに、成人式の時にはバチっとスーツを着こなしてくるようなものだ。

bf1

物作りの背景にこのような経験を感じさせるデザイナーを一人紹介したい。
Klaus Plank (クラウス・プランク)氏はどうしても離れたかった故郷を他郷から眺めたとき、その山や森、豊かな自然の恵みに気付き、そこから生まれる物語を洋服と言う形で綴っている。ブランドネームの berg(山) fabel(物語) はまさにここから生まれたのだ。
彼自身、故郷から飛び出しているが、毎シーズン展開するコレクションこそ”今”と言う時からはみ出していると言えよう。
チロル地方と呼ばれるその場所は、オーストリアとイタリアにまたがるアルプス山脈東部の山岳地帯のことだ。アルプスの少女ハイジの世界観を想像してもらえば一番わかりやすいだろう。

bf2

Short Tyrol Jacket / MEN’S size.48

bergfabel の服の素材やディテール、デザインソースはおおよそ100年前のチロル地方の農民やきこり達の服であり、縫製の仕方も当時のものを出来るだけ再現している。
洋服の形に変化はほとんどなく、シーズンごとに異なる生地を当てている。その生地こそが肝だが、例えばバージンウールであれば知り合いの女性が飼っている50頭の羊からとられるもののみを使用しているそうだ。
リネンやラミー、コットンも決して高級素材を使用しているわけではなく、アルプスの豊かさを感じられる、はるか昔と同じ生地に仕上がるように素材を選定し、独自に織り上げている。
だからこそ、見た瞬間に明らかな異質さを感じざるを得ない。なにせ目の前にある服だけが、100年前からその時をが止まっているかのように見えるからだ。

癖が強いアイテムはそれだけ合わせるものをも選ぶと考えるのは当然だろう。
ここまで読んだ方なら、bergfabel と言うブランドの癖の強さを感じたに違いない。しかし着るとわかるが、どんな服装にも難なくはまってしまうのだ。
なぜなら、bergfabel の洋服は程よく現代に溶け込みやすくなっているからだ。真っ白な裏地がもっともわかりやすい部分だろう。博物館にあるような歴史的資料でなく、モダナイズされた着られるアンティークを作っているのだ。
もしかしたら、いやいやで故郷を離れていたのではなく、最初から故郷に心酔していたらこのような思考には至らなかっただろう。

bf3

 Short Tyrol Jacket / MEN’S size.46

bergfabel の洋服の特徴と言えば、最初からあちこちで「ツレ」が発生していることだ。これは表地と裏地にそれぞれ縮率の異なる生地を使用し、洗いをかけることで生まれた意図的な ”ズレ” である。
なんだか学校の制服を着崩していたあの頃の感覚がよみがえってきたような気がする。本来ならアウトだったり、間違いだったりとされてしまうようなディテールをわざと作り出す。もちろんこの「ツレ」によって、使い込まれたような味わいになる効果は間違いなくある。ただそれだけでなく、私はデザイナークラウス氏のファッションの自由に対する熱い意思を感じずにはいられない。

bergfabel のジャケットに袖を通すといつも心が高揚する、その理由を改めて気付かされた気がする。